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【ネタバレ】映画『空母いぶき』感想|撃沈寸前のベイルアウト作品

「空母いぶき」のイラスト

2019年5月24日公開『空母いぶき』を鑑賞。原作は『沈黙の艦隊』『ジパング』などでお馴染み、漫画界の巨匠・かわぐちかいじ。「専守防衛」という縛りの中で他国の侵略が行われた際、如何なる対応ができるのか?国民にできることとは何か?非常に時事的かつ日本にとって重要な問題を問う作品である。

『空母いぶき』作品情報、及び原作との比較を書いた記事はこちら。本作、総理大臣役である佐藤浩市さんの炎上の件にも触れている。

作品情報
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映画【空母いぶき】原作の漫画と比較!【佐藤浩市氏炎上】私見

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ネタバレあり!のイラスト

 

『空母いぶき』感想

良かったところ

市原隼人が素晴らしい

ウチダがこの映画で唯一、予想を超えてよかったと感じたのが後半の戦闘機による空中戦で、特にその場面の中心を成す市原隼人の存在だ。彼はセリフこそ多くはないものの、危地へ赴く戦士の心情を決して長くはない尺の中で最大限表現している。

ちなみに原作では

より戦闘をドラマチックにするフラグとして、(市原隼人演じる)迫水がスパロウ隊・池谷三佐と家族への遺書を書くかどうか、やり取りをするシーンがある。

映画ではその描写こそはないものの、出撃前の待機シーンでの彼の神妙な面持ちを見るだけで「これから死ぬかもしれない。でもやらねばならない。」その決意が伝わってくるよう。表情で役柄を表現できる役者がどれくらいいるだろうか。

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コックピットで酸素マスクを着けている戦闘中、目とセリフだけでこうも緊張感が出せようか?彼の表情、声のトーン、抑揚など全てが戦闘機乗りという役柄に嵌っており、本来ならば凡用な戦闘シーンであったであろうこの空中戦が、一層栄えて見えたように思う

F15戦闘機の写真

またもうひとりのパイロット、柿沼(平埜生成)の家族を想いながらベイルアウト(戦闘機からの脱出)する下りなども、原作に準拠しているシーンではあるが心動かされるものがあった。

  1. 愛する家族
  2. 戦場

うまく掛け合わせると感動が生まれやすいのは確かなので、この辺りを物語の軸に近づけて構成したらば、あるいはもっと面白くなった可能性もあったかもしれない。

 

残念だったところ

戦闘が始まっても居続ける記者

一番看過できなかったのが同艦していた記者の存在だ。民間人にも関わらず、戦闘が始まっても艦に居座り続ける二人の記者。否、避難させようとしない「いぶき」である。いや、一度はヘリに乗せて避難させようとするも、ごねるおっさんと小娘。

小娘(本田翼):艦にいさせて!

ウチダの脳内:・・・なんで?死ぬよ?

秋津艦長:(微笑を浮かべて)状況はますます厳しくなりますよ。いいんですか?

ウチダの脳内:・・・う、嘘だろ

セリフのディテールは無視

彼は言った筈である。

我々が誇るべきは、国民に誰ひとりとして戦争犠牲者を出していないことだ。

by秋津竜太

ところがこれからガンガン攻撃を受けるであろう艦に民間人を乗せ続ける。

これは戦争犠牲者を出す気満々である。

機密保持をぶっ壊す!by秋津艦長

衛星電話を使って勝手に戦闘の報道をした本多裕子記者に対し、「いぶき」側の対応といえば

いぶきの人:こら。そんなことしたらお電話没収だゾ。

小娘:はぁい

何なんだこの茶番は・・・?

それだけに留まらず、そのしばらく後のシーンでの出来事だ。

いぶきの人:秋津艦長から特別に食事が用意されました。

記者二名は運ばれてきた食事に被さったシートをめくる。するとそこには先程没収されたはずの衛星電話が

もう一度言う。何なんだこの茶番は?

自衛隊初の防衛出動下、その戦闘を収めた動画など国の最重要機密事項なのは疑いようもない。にもかかわらず、独断で報道を許可する「いぶき」艦長とは如何に?

機密保持をぶっ壊す!by秋津艦長、である。

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残念だった点まとめ

流石にこれらは不自然を通り越して物語全体を壊しかねない、「ラインオーバーな突っ込みどころ」だと感じた。

 

動きが少ない

後半は空母決戦や空中戦などがあって大分マシだが、前半は戦闘そのものの描写よりも、艦内でのやり取りが多く、退屈である。しかも、原作を知っているからこそ、そのミッションの困難さがわかる場面もあるのだが、原作を知らないと多分伝わらないんじゃないかと思った。

例えば

敵艦の射程距離に入る前にハーブーンミサイルで敵艦乗員もろとも撃沈するか否かで迷うシーンがある。しかし、近距離から敵の艦砲のみを破壊すれば乗員は殺さずに済むという戦法を思いついて実行するのだが、原作だと後者の作戦が如何に危険で困難かが丁寧に説明されている。が、映画だとほとんどないので緊迫感に欠ける。

他にも原作に準拠しているシーンはたくさんあるが、会話でわちゃわちゃっと描写説明するシーンが多く、テキストで読む漫画では伝わっても、セリフを耳で拾わねばならない映画ではわかりにくい。よってもう少し動きのある描写を増やした方が、原作を知る人、知らない人に関わらず楽しめるのではないかと感じた。

戦闘機の写真

何も解決していない(伏線回収放棄)

大国の干渉によって戦闘が中断される、という結末は伏線回収を放棄した大雑把な手法だ。本来であれば、「東亜連邦」なる新興国の目的とは?後ろ盾する大国の存在とは?などその正体を明らかにし、彼等の罪を裁くまでがストーリーの筋道というものだろう。しかし、結局何も明らかにならないし、彼等は何の罪にも問われない(少なくとも劇中では)。よって、敵国を原作の通り中国にする、という設定を回避するための「付け焼き刃な設定」という印象は全く拭えない。言い換えると、ただ事務的に(義務的に)映画化しました、というノリを感じる。敵にも相応の目的と動機を用意しないとこの事務感は拭えないと推察する。

「空母いぶき」のイラスト

 

終わりに

役者に関しては最高の布陣といっても過言はない。それだけに違和感のありすぎる脚本や設定(特に映画オリジナルの「ネットニュース」関連)が彼等の素晴らしい演技を邪魔していた。よって数ある原作漫画の映画化の失敗、とまでは言わないが成功と呼ぶには程遠いのは否めない。

とはいえ、多分に私見もあるが、最悪の事態をアルバトロス隊の空中戦の緊迫感によって免れた、というのがウチダの総括である。市原隼人演じる迫水洋平は、柿沼正人の命だけでなく、この映画自体をも撃沈寸前でベイルアウトさせたのだ

 

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