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『ザ・ファブル』初実写化!南勝久ファン歴15年による感想【映画】

映画『ザ・ファブル』のイラスト

2019年6月21日公開の映画『ザ・ファブル』。南勝久の処女作『ナニワトモアレ』から愛読しているガチの原作ファンによる、実写映画化した本作のレビューであります。基本的に原作好きの観点から超個人的意見のもとにものを言ってます。ネタバレありです。

『ザ・ファブル』作品情報

製作国日本
ジャンルアクション
日本公開日2019年6月21日
監督江口カン
キャスト

岡田准一
木村文乃
山本美月
福士蒼汰
柳楽優弥
向井理
木村了
井之脇海
藤森慎吾(オリエンタルラジオ)
宮川大輔
佐藤二朗
光石研
安田顕
佐藤浩市

『ザ・ファブル』あらすじ

伝説の殺し屋、一般人になる

どんな相手も6秒で殺す、殺しの天才こと”ファブル”の次なる任務は一年間殺しから離れて一般人として社会に溶け込み、普通に暮らすこと。
佐藤明という偽名を授かり、妹という体(てい)の佐藤洋子と共に関西で繋がりのあるヤクザ・真黒組の住宅で暮らすこととなる。

悪の権化・小島の出所

佐藤(偽)兄弟は真黒組の組長・浜田と若頭・海老原との挨拶も終え、大阪の生活をスタートさせる。佐藤は試しに仕事をしてみようと就活をするも一般常識や礼儀をまるで知らない為、一向に採用されない。しかしひょんなことからデザイン事務所に勤める清水岬と出会い、彼女の紹介で共に働くことになる。
一方、異常な凶暴性を持つ真黒組の武闘派ヤクザ・小島が15年の刑期を終えて出所してくるも彼が兄貴分として慕う海老原が不整脈で倒れ、入院するはめに。その機会をいいことに小島はタブーとされているデリヘルで一儲けしようと思い立つ。デリヘル関連は同組幹部である砂川が一帯を取り仕切っているからだ。しかし小島はモメてナンボだと言わんばかり、強引に進めようとする。真黒組のデリヘルを実質取り仕切っている砂川の部下を殺し、デリヘルの看板娘としてミサキを働かせようと考える。ミサキは以前グラビアの仕事をしており、その際に真黒組系列でAV出演のオファーを受けている。断られたものの過去のデータが残っていたため、小島が目をつけたのだ。小島はミサキを脅し、協力しなければ家族や仕事先、どんな手を使ってでも嫌がらせをすると詰め寄り、ミサキは仕方なくデリヘル嬢として働くことを承諾させられる。

拉致られるミサキと小島

砂川が自分のシマを荒らす小島を拉致、同時にミサキも連れて行かれる。小島のバックには”ファブル”と呼ばれる伝説の殺し屋がバックについていると噂を聞いていた砂川は自身も贔屓にしている殺し屋を呼びよせる。コードフードと呼ばれる彼等は以前ファブルの仕事した現場を目の当たりにして驚嘆すると同時に自分の手で仕留めて伝説狩りを成し遂げたいと考えていたため、絶好の機会だと息巻いて話に乗ってくる。

ミサキ&小島・救出大作戦

海老原は弟分の小島を助け出してほしいと佐藤に話を持ちかける。佐藤は巻き込むなと海老原を突き放すが、海老原は自分の宝であるハコスカGT-R(旧式のスポーツカー)をやるからと誠意を精一杯表現する。その姿に心を動かされたアキラは独自に調査を開始。結果、ミサキも巻き込まれて同時に拉致られたことを悟る。世話になっているミサキをほってはおけないとアキラは救出作戦の決行を決断する。しかし殺せば掟を破ることになり、同時に人質の救出も成さねばならない前代未聞のミッション。アキラは殺さずの銃に改造した得物を携え、ヨウコと共に砂川の仕切る工場へと向かう。

ネタバレあり!のイラスト

『ザ・ファブル』感想

適度に笑いあり、動きもあり、ストーリーもわかり易いし飽きない、良アクションなんだと思う。「思う」というのは私ウチダが原作の幻想に囚われているからだ。

原作未読で映画を初見で見たらそれなりに楽しめるのであろう。しかし、原作者である南勝久の作品の良いところは「暴力のリアル」だと考える。ご自身も環状族と呼ばれる関西特有の暴走族出身であったことからその世界に造詣が深く、暴走族や暴力団のガチでリアルな怖さを演出することに非常に長けている。

であるからこの一般受けやキャッチーさを重視したミーハーな仕様にどうしても拒否感を覚えてしまう。映画の中に「暴力のリアル感」はなく、スタイリッシュでとっつきやすいイケメン仕様に変更されているのだ。だから当記事の感想は原作厨としての意見を多分に孕んでいることを保証いたします

キャスティングについて

格闘技に造詣の深い岡田准一は良い

クラブマガをはじめ、様々な武道や格闘技に造詣の深い上、華があって演技もできるという点では岡田准一の一択で間違いない。また佐藤明という役柄【無感情に見えて純真・変なとこでツボるおかしな奴・意外と情に厚い】等の感情もうまいこと表現できていたように思う。

ただ後述するけどアクションシーンの演出がイマイチだった感ありで岡田の良さも十分発揮できていなかったように思う。

リアルなヤクザ感の欠如

先述した通り、見栄えの良さや人気イケメン俳優のキャスティングを重視しているが故「ヤクザのリアルな怖さ」に乏しい。

浜田組長役の光石研、海老原役の安田顕などベテラン勢はまだそれっぽくて貫禄ある。柳楽優弥も「ディストラクション・ベイビーズ」の時と同様に独自のサイコパス感、ヤバイ奴感を存分に発揮していて原作のイメージを保ちつつも柳楽特有の空気感もあってよかった。

しかし向井理、その整った顔立ちとモデル並のプロポーションは老舗ヤクザというイメージには全く合っていない。かといってこちらを納得させるような意外性のある動きをしているわけでもない。決して演技力が低いわけでもないが納得に足る何かはなかった。イケメンすぎて逆に不自然なのだ。

フードとコードのどうしてこうなった?

一番違和感をもってしまうのが敵役の殺し屋・フード(福士蒼汰)とコード(木村了)である。

まず原作のキャラクターについて。フードというコードネームで呼ばれる殺し屋は、素性の知れない孤高の殺し屋であり、必要な事以外は喋らず、無表情で感情を表に出さない。常に顔を隠すようにフードを深く被っている。相棒のコードはガタイがよく、ステゴロの喧嘩に特化した腕っぷしの強い裏の世界の住人であり、フードとは対照的に常にヘラヘラしていているがそれがかえって威圧感を醸し出している。

では実写版ではどうか?二人に共通して言えるのは常にパリピーな大学生のノリでわきゃわきゃしながら殺しを楽しむサイコパスといった風潮でとてもプロの殺し屋とは思えず、せいぜいラリった三下ヤクザ程度の陳腐なオーラを纏っている。そこにリアルな恐怖など微塵も存在しない。確かに原作でもファブルの凄さを目の当たりにして伝説を殺したいと言う決意に至るシーンはあるが、まるでタレントを追っかけるミーハーのようにはしゃぐ演出は誰得なのだ。

白竜なみの強面キャラで観客にさえ畏怖の念を抱かせるようなガチのヒットマンだったならばわたしゃ歓喜したよ。

アクションについて

最大の見せ場である工場のシーン

雑魚ヤクザが湧きすぎてごちゃごちゃし過ぎ、わけがわからない。もっと見やすくしてくれとみていて思った。単体でのアクションシーンはかっこいいと思うけど、さほど岡田准一の良さを十分に魅せきれていない。そして原作のアキラは大勢を相手にするシーンはほとんどない。ひとりひとりを隠密行動で静かに行動不能にしていくパターンがほとんどだ。ここにも見栄えの良さを狙った制作陣の意図が伺える。大胆なアレンジだと割り切ることができない。

パルクール

工場への侵入シーンで見せるパルクールもおそらくスタントなしでやってのけたのだと思うがちょっと絵的に地味。原作だとアクションシーンの見せ場のひとつがアキラの縦横無尽なパルクール。マンションの高階層からでも無傷かつ一瞬で一階へ到達できる。欲を言えば『アルティメット』のシリル・ラファエリ並と言ったら言い過ぎだが、スタイリッシュさとスピード感のあるシーン数はもう少し欲しかった。

設定の補足

映画だけでは分かり難いと思われる設定の補足をいくつかさせて頂きます。

佐藤が猫舌の理由

殺しのプロとして育てられる過程で毒の判別能力が身についた結果で舌が鋭敏になりすぎた為、極度の猫舌になった。

洋子は唯の酒呑み美女?

映画で洋子が非凡でないとわかるのは一瞬だが(酒豪シーンを除いて)彼女にも殺し屋としての特殊能力がある。まず記憶力が尋常でない。文字、暗号、地図、あらゆる視覚情報を一瞬で記憶するという能力を幼い頃から訓練されてきた。さらにアキラには及ばないながらも徒手格闘の実力も兼ね揃えている。

小島の異常な凶暴性の理由

15年の服役の原因となった、カタギの女性を殺してしまったことによってEDとなり、性欲がわかなくなってしまった分のはけ口が暴力に向いているため。

海老原の真意

海老原が佐藤と落ちぶれプロレスラーを何故戦わせたのかが映画だと若干曖昧だが、ファブルという伝説に大して半信半疑であったためにその実力を確認する作業であった、というのが一番の理由。また、ハコスカを譲渡する下りも原作だと「これが俺の誠意や!」海老原がハコスカをどれだけ大切にしているかの下りが多く描かれているため、それを手放してまでアキラに手を貸してほしいという強い心情の表現となっていることがよりわかる。

終わりに

ウチダ評価

5点満点中2点:

いつにも増して超個人的かつ独断&偏見な評価。
決して映画化にあたって変化球を投げることは悪くはないし映画独自の設定も盛り込んでしかりだと思う。原作に忠実すぎるなんてかえってつまらない。しかし温故知新、原作の魅力は最低限残した上でアレンジしましょうよって超個人的意見の元に叫びたい。
しかし一般受けは良さそうだ。ちなみに映画での時系列は原作の1~7巻分にあたる。現在18巻まで出ていて連載中、まだまだエピソードは豊富にあるのでもしかしたら続編の可能性もあるかもしれない。しかし願わくば映画によって原作を読む人がより増え、その魅力を分かち合える人が増えたら良いなと。

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