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『凪待ち』感想!白石和彌✕香取慎吾✕リアル系宿命的ドラマ

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映画『凪待ち』のイラスト

2019年6月28日公開の映画『凪待ち』の感想記事。白石和彌監督✕香取慎吾主演で話題となった今作は巷で高評価の嵐だったようで概ね同意なのだがあと一歩、いや半歩、という印象であった。しかし俳優・香取慎吾の底力と存在感たるや噂に違わぬ、いやそれ以上のインパクトだったのは間違いなく、そこに白石和彌の技量が掛け合わされるのである。間違いなく一見の価値ありだが、良かった点も残念に思った点も含め、つらつらと書き連ねた。なおネタバレあり

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『凪待ち』作品情報

製作国 日本
ジャンル シリアス系陰鬱ドラマ
日本公開日 2019年6月28日
監督 白石和彌

キャスト

  • 木野本郁男/香取慎吾
  • 昆野美波/恒松祐里
  • 昆野亜弓/西田尚美
  • 昆野勝美/吉澤健
  • 村上竜次/音尾琢真
  • 小野寺修司/リリー・フランキー

『凪待ち』あらすじ

毎日をふらふらと無為に過ごしていた木野本郁男(香取慎吾)は、ギャンブルから足を洗い、恋人・亜弓(西田尚美)の故郷・石巻に戻る決心をした。そこには、末期がんであるにも関わらず、石巻で漁師を続ける亜弓の父・勝美(吉澤健)がいた。亜弓の娘・美波(恒松祐里)は、母の発案で引っ越しを余儀なくされ不服を抱いている。
美波を助手席に乗せ、高速道路を走る郁男に美波の声が響く。
「結婚しようって言えばいいじゃん」
半ばあきらめたように応える郁男。
「言えないよ。仕事もしないで毎日ぶらぶらしてるだけのろくでなしだし…」
実家では、近隣に住む小野寺(リリー・フランキー)が勝美の世話を焼いていた。人なつっこい小野寺は、郁男を飲み屋へ連れていく。そこで、ひどく酒に酔った村上(音尾琢真)という中学教師と出会う。村上は、亜弓の元夫で、美波の父だった。
新しい暮らしが始まり、亜弓は美容院を開業し、郁男は印刷会社で働きだす。そんな折、郁男は、会社の同僚らの誘いで競輪のアドバイスをすることに。賭けてはいないもののノミ屋でのレースに興奮する郁男。
ある日、美波は亜弓と衝突し家を飛び出す。その夜、戻らない美波を心配しパニックになる亜弓。落ち着かせようとする郁男を亜弓は激しく非難するのだった。
「自分の子供じゃないから、そんな暢気なことが言えるのよ!」
激しく捲くし立てる亜弓を車から降ろし、ひとりで探すよう突き放す郁男。
だが、その夜遅く、亜弓は遺体となって戻ってきた。郁男と別れたあと、防波堤の工事現場で何者かに殺害されたのだった。
突然の死に、愕然とする郁男と美波――。
「籍が入ってねえがら、一緒に暮らすごどはできねえ」
年老いた勝美と美波の将来を心配する小野寺は美波に言い聞かせるのだった。
一方、自分のせいで亜弓は死んだという思いがくすぶり続ける郁男。追い打ちをかけるかのように、郁男は、社員をトラブルに巻き込んだという濡れ衣をかけられ解雇となる。
「俺がいると悪いことが舞い込んでくる」
行き場のない怒りを職場で爆発させる郁男。
恋人も、仕事もなくした郁男は、自暴自棄となっていく――。

公式サイトより引用

『凪待ち』感想

公開日からはかなり日を経てしまい、近隣の映画館でも上映が終わってしまい、ネットで配信されるまで見送ろうかなと考えていたのだが『彼女がその名を知らない鳥たち』をつい先日ネットで観た際、とても良かったのでやっぱ観ないわけにいかねえ!と思いたったある日曜の朝である。

また白石和彌監督の秀逸な演出と予想できない結末を香取慎吾という異色のキャスティングで観られるのかと思うと居ても立ってもいられず。しかも香取慎吾といえば、リアルの世界では茶目っ気たっぷりに愛嬌あるキャラクター、且つ国民的な人気スターであることはもはや日本では周知の事実。そんな陽的な印象の強い彼が、『凶悪』や『孤狼の血』等のどす黒いバイオレンスなリアル系描写でお馴染み、白石和彌監督によるプロデュースでギャンブルに溺れながらドロドロの人生を歩む陰的な要素を多分に含んだ郁夫という役柄を演じるというこの対比、わくわくせずにはいられない!見逃す理由はない!にもかかわらず! 何故俺はこれまで観ようと思わなかった!?俺のバカ!アホ!ドジ!

ネタバレあり!のイラスト

殺人事件要素だけが惜しい

殺人を犯す犯人のイメージ

『凶悪』を彷彿とさせる暗鬱な殺人事件もののサスペンスかと思いきや、主軸は主人公の生き様、沈没と再生に置かれているとは思わなんだ。そのせいか若干ストーリーに殺人事件の要素を持ち込んだことに対して歯車感無理矢理感といった印象を受け、やや不自然な印象を受けた。犯人のいかにもといった雰囲気や、深く掘り下げられない動機などを考えると、ただ「美波を殺させる為のいち要素」とでもいうような。

それならばもう少し外的要因であるよりは内的要因、郁夫のクズな行動が直接のきっかけとなって美波が死ぬなりなんなりする方が物語としてはブレが少なかったような気がする。最悪は交通事故とか偶然でも良い。殺人というバイアスがかかると「犯人探し」的な要素が発生して鑑賞者の意識もそっちにやや逃げてしまうようにも思われる。相互関係があるのなら良いが、つまり「クズ男・郁夫の破壊と再生」に寄与するような殺人事件であれば良いが、何かメインテーマとは関係のないところで「用意された感」なるものを感じてしまった。

俳優・香取慎吾の演じるリアル塵っぷりたるや

映画『凪待ち』のイラスト

とはいえ、多くの人が感じたように俳優・香取慎吾の噂に違わぬ強烈な存在感、リアル感は素晴らしい。「陰」の役といえば遥か以前に『ドク』というドラマで影を孕んだベトナム人を演じた時くらいしか印象にないが、この一見して愛嬌たっぷりに見える男に演じさせると、そのコントラストが映えるんだなあこれが。闇を秘めた役柄が。おおよそアイドルとは対極にある郁夫の汗臭さや泥臭さが、香取慎吾という人間のナチュラルな陽的印象によって一層映えて見えてくるから不思議。まるでスイカの甘みを引き立てる塩のように。

キャラの心情をカメラワークで表現するその演出手腕たるや

ピントのぼけた湖の画像

これは映画評論でお馴染みのライムスター宇多丸さんが言及していたことだが、カメラのピント合わせを効果的に使って郁夫の立場や状況、あるいは心情といったものをうまくみせているとのこと。食べては戻し、食べては戻しの七転八倒を繰り返す終盤までは、同じカットで複数の登場人物がぴったり同一の焦点に収まることがなく、最後の最後に一度だけぴったりと合う瞬間があるという。そりゃさすがに気づかなんだ。恐るべし宇多丸さん。私含め、気づかなかった人も多かったことと思うが、しかしこういう細かい演出が観客の心情に微妙に影響を与えうるだろうことは想像に難くない。

カメラの傾いていく「闇落ち」演出

暗闇に佇む男の画像

対してわかり易いがしかし秀逸かつ巧妙であることが誰の目にも明らかで強烈に印象に刻まれたあの演出、香取慎吾が競輪に”堕ちる”瞬間、言い換えると人としてのタガが外れた瞬間、言う慣れば郁夫が郁夫たらしめる瞬間、カメラがゆっくりと鈍く傾いていくあの表現。ただカメラを傾けていくというだけなのに(しかしその傾くスピードは絶妙である)こうも奇異な独特な不気味な不穏なインパクトがもたらされるものなのかと、その発想に驚嘆する想いがした。

と、書いていてあのシーンを思い出した。『彼女がその名を知らない鳥たち』で、阿部サダヲ演じる陣治が、割り込んで電車に入ってきた若者を外へ突き飛ばした後の顔のアップ。電車が走り出すと一定の間隔で外のライトに照らされてはまた暗闇に呑まれることを繰り返すあの陣治の光と闇の顔…。 白石監督の演出とはそうなのだ。そのシーン、その空間、あらゆる物や事象を駆使して我々の心情に深く刻み込む。そのキャラクターの底の見えぬ心の穴を。小説や漫画では表現の難しい映画特有の利点(絵、時間、音の総合表現)を最大限活かして何倍にも表現を彩る、類まれな表現力。これだから白石映画は止められない。

終わりに

凪の写真

エリマキ評価

5点満点中4点:

泥まみれになりながらも微かな光明、いや、「凪」が運命的に、宿命的に訪れるラストはとりわけ素晴らしかった。

白石監督の秀逸な演出、名優・香取の存在感、これらが絡み合ってつまらないはずはない。 それだけにあと一歩で最高の一作になったという気がして惜しかった。だとしても必見の一作であることは間違いない!是非ご覧あれ!

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