ジャッキー・チェンがこれまでのイメージとは一線を画す役を演じることで話題になった『ザ・フォーリナー/復讐者』。ネタバレなし感想に加え、ストーリー背景が難しい点や、登場人物の多さが気になったのでそれらを解説する記事を書いた。
『ザ・フォーリナー/復讐者』作品情報
概要
娘を爆破テロで失い、復讐の鬼と化した男を演じるのはジャッキー・チェン。そして事件の背景に大きく関わるアイルランド政府の副首相役を演じるピアーズ・ブロスナン。北アイルランド問題を背景としたシリアスな舞台設定に絡めた謎解きとスリル満載なバトル、これまでのジャッキー作品とは一線を画したスタイリッシュサスペンス・アクション。
制作国
アメリカ・イギリス・中国合作
ジャンル
アクション、サスペンス
日本公開日
2019年5月3日
監督
マーティン・キャンベル
代表作:『007/ゴールデンアイ』1995年、『マスク・オブ・ゾロ』1998年、『007/カジノ・ロワイヤル』2006年
脚本
デヴィッド・マルコーニ
代表作:『エネミー・オブ・アメリカ』1998年、
キャスト
ジャッキーチェン(クァン・ノク・ミン)、ピアース・ブロスナン(リーアム・ヘネシー)
あらすじ
映画『ザ・フォーリナー/復讐者』公式サイトより引用
ロンドンでレストランのオーナーとしてつつましい生活を送るクァン(ジャッキー・チェン)。平穏無事な生活を送っていた中、突然たったひとりの高校生の娘が無差別テロに命を奪われてしまう。クァンは復讐の怒りに煽られ、静かに爆発していく。彼は犯人を探すうちに、北アイルランド副首相のリーアム・ヘネシー(ピアース・ブロスナン)にたどり着く。ヘネシーは、官僚としての仕事で過去に抱えた問題に脅かされていた。クァンの犯人を追うあくなき執念が、昔アメリカの特殊部隊出身である事を浮き彫りにしていく。次第に明らかになっていく二人の過去。敵か、味方か…孤独な男たちの戦いは、想像もしない結末へと向かっていく―。
『ザ・フォーリナー/復讐者』感想
アクションのキレや如何に?
誰もが気になるのは65歳のジャッキーに全盛期のようなアクションができるのか?ということだが、流石に『酔拳』や『ラッシュ・アワー』など数々の名作で目の当たりにしてきたようなキレを感じないのは一目瞭然だろう。むしろ作品のテイストに合わせて意図的に抑えられているようだ。アクションは従来のジャッキー作品に比べて総シーン数も少なく、尺もそこまで長くはない。しかし控えめのそれは作品の空気を読み、ピンポイントで魅せていて、ストーリーを効果的に盛り上げる役割を果たしている。バンドで楽器隊が必要以上に目立てば歌を殺してしまうように、球技で一人のエースプレイヤーが点を取りまくることが必ずしもチームの勝ちに結びつかないように、ジャッキーチェンのアクションに主眼を置いているのではなく、この作品全体が魅力であり、主人公とは言え、ジャッキーもその一部なのだ。彼はチームプレイに徹しているのだ。
とはいえ、アクションだけをとっても見応えは十分ある。屋内上階の戦闘から窓に飛び込んで縄を伝って滑り降りたり、階段の吹き抜け部分を飛び越えてショートカットするパルクールアクション、林での戦いは木の枝を咄嗟に武器にし、屋内戦では壁を利用した地形戦など身近な全ての物を武器にするという実戦要素満載。そこにキャラの悲壮感も加わってアクションの重厚感が増している。
若干サスペンス要素が多過ぎて中盤に間延びしている感は否めないが、それを補って余りある見せ場が終盤、立て続けに放たれる。そして結末は原作と違うらしいのだが、ウチダ的にはとても納得・満足できる締めくくりであった。
シリアスジャッキー+サスペンスクライムという新しい掛け合わせがバランス良くまとまっている、良い作品だと感じた。
牙を抜かれるおっさんと牙をむくおっさん
テロ実行犯の正体を暴こうと執拗に付きまとってくるクァンに対し、最初は「憐れな老いぼれ」と言わんばかりに気にも止めなかったかつてのボンドおじ・ピアース・ブロスナン演じるリーアム・ヘネシーだが次第にクァンが只者ではないことを認識し、追い詰められていく演技がまたいい。イギリスと北アイルランドの間で苦心し、そこにクァンが割って入り、更には彼を取り巻く人間模様も二転三転し、どうすべきか葛藤する様は、復讐という目的に向けて一切の迷いがないクァンとは対照的なところがまた面白い。迷うおっさんと迷いなきおっさん、丸くなるおっさんと尖っていくおっさん、この二人の対比もまた見どころのひとつだ。
より作品を楽しむために
主要7人の立ち位置と相関図
キャラクター数が多く、基本的な各キャラの背景を理解しておかないと混乱する。私、混乱しました。以下主要7キャラの立ち位置を把握しておくだけで格段にストーリーを理解しやすくなると思う。
クァン・ノク・ミン | テロ実行犯に復讐を果たす為、ロンドンから北アイルランド・ベルファストへ渡る |
リーアム・テネシー | 北アイルランド副首相。イギリス政府、北アイルランド、UDIの間で苛む |
メアリー・テネシー | リーアムの妻。アイルランド問題にどっちつかずな夫に辟易 |
ショーン | リーアムの甥で元特殊部隊。リーアムに協力し、テロ実行犯を探る |
マギー | リーアムの愛人 |
ブロムリー | ロンドン警察テロ対策本部長 |
マクグラス | UDI幹部。テロ実行犯とは無関係を主張する。 |
北アイルランド問題を知る
若干ストーリーを理解する上でハードルを上げているのが北アイルランド問題。ざっくりとでも概要を理解しておく方がこの映画をより楽しむ上で重要だ。
ざっくり概要
- アイルランド独立後も、アイルランド島北部はイギリス領として残っている
- イギリス領のままで良い派か、アイルランドとして認めさせたい派で対立
- 対立の原因は主に宗教的理由による
- 1998年に和平が結ばれるが、テロや暴動は現在でも完全にはなくなっていない
- 劇中の架空の組織であるUDIのモデルはアイルランド独立闘争を行ってきたIRA(アイルランド共和軍)
- リーアム・テネシーは北アイルランド副首相としてイギリスに譲歩しすぎず、しかし対立もせぬよう間を取り持つことに苦心
北アイルランド問題を扱った過去の名作
余談だが、『デビル』(洋題:The Devil's Own)1997年という映画がある。ハリソン・フォードとブラッド・ピットの共演が話題となったやや古い映画だが、ブラッド・ピットがIRA活動家なのを隠し、活動の一貫でニューヨークにホームステイをするのだが、その下宿先が警官役のハリソン・フォードの一家であり、二人は良き友人となりながらもお互いの立場によって対立、対決に至ってしまうという、こちらもシリアスかつ重く、切ない物語。ウチダの大好きな映画のひとつ。おすすめです。
終わりに
新たなジャッキー・チェン像に単独でフォーカスするのも良いが、特筆すべきはシリアスジャッキー+サスペンスアクションとしての掛け合わせで総合的にクオリティの高い作品に仕上がっている点だ。たとえ肉体が衰えようと、チームプレイに徹し、演じ方やストーリーの魅せ方次第でいくらでも名作は生まれる、それを再認識させてくれた良い作品だった。
ちなみにジャッキー・チェンの過去作を観たい!という方は以下の記事もご参考下さい。
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