マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)初作品であり、名作『アイアンマン』を改めて鑑賞し、設定や演出に注目して記事を書いた。
トニー改心のきっかけは3つ
- 自分が死にかけたこと
- 自社製品がテロリストに悪用されていた事実
- インセンの死
ざっくり言えば自社製品が「世界平和とは真逆の結果に繋がっていた」のを目の当たりにするというのが理由だが、より詳しくステップを分けるとこの3つになるだろう。
どれかひとつが抜けても動機としては薄くなってしまう。1と2はどちらか欠けても不十分であり、セットになって初めて納得できる理由になり得る。自分がテロリストによって絶命の危機に直面し、その原因となったのが間接的とはいえ、自社製品であることを身をもって知ったのだ。そして3はそれを後押しする形になっている。インセンの死亡間際の言葉「無駄にするな、君の命を」それを聞いた時のトニーの表情を見れば、その怒りと無念さとで並ならぬ決意が既に形作られつつあることが想像できる。
「疑問点」アークリアクターの曖昧さ
改心し、兵器を平和利用するための代返案がアークリアクターだとトニーは言うが、このアークリアクターが何なのか、具体的にどんな有用性があるのか、どうやって悪を駆逐し、平和を実現するのか、劇中でほとんど具体的には述べられていない。
わかることと言えばトニーの心臓を助けているのと、アイアンマンの動力源であるということと、その力を利用して大爆発を起こすことができるということだ。結局、兵器であることには変わりないし、今後これを悪用されない保証はどこにあるのだろうか?というかその後、速攻で悪用されてしまうしね。
そしてスターク・インダストリーズは今後どうするのか?いきなり兵器の出荷・製造をやめれば経営が成り立たなくなってしまう。アイアンマンだけをつくって自分ひとりで世界平和を実現しようとしているのだろうか。どのように事業化し、同時に平和を実現しようとしているのか?どんな展望があるのかは曖昧で、とりあえず目の前の悪を駆逐するということしか考えていないようにも見える。
「女性記者の重要性」が解る3つのシーン
序盤にトニーがラスベガスから撤収する際、駆け寄ってインタビューする女性記者クリスティン。彼女が何気に全編通して要所に登場し、重要な役割を担っている。
ワンナイトラブ
世界中に自社製の武器を流通させているスタークを非難するような口調で、スタークに敵意を抱いているのかなと思いきや、彼の軽い誘いに応じて一夜を共にする尻軽女。このシーンでの彼女の役割は3つ。
殺戮兵器であることの示唆
トニーが改心する最大の理由である、自社製品が殺戮兵器として世界中の意図しない悪党にまで使われている、という事実をここでも述べて印象付ける役割を果たしている。
トニーの遊び人キャラ
モデル12人と毎月関係を持っていたことなど、口頭での説明はあるがそれだけでは印象が薄い。初対面でも美人であれば応対し、すぐさま口説いてみせ、超がつく程のプレイボーイだということがこのワンナイトラブの一連のシーンで印象付けられる。
ペッパーの紹介
この歯に衣着せぬ尻軽女がペッパーに対し、「長年働いてまだクリーニング係なの?」と問いかけると「社長の言うことならゴミ捨てでもなんでもやっています」と苛立つ様子もなく冷静に返答するペッパー。ペッパーがどんなキャラかということと、トニーの側近であり、さらに有名であるということまでわかる。尻軽女がペッパーのキャラ紹介のトリガーとなっている。
慈善イベントでの非難
ステイン主催の慈善イベントに、招待されていないスタークが乗り込み、そこでもクリスティンに遭遇し、言われる。「よく顔を出せたわね」。出荷を停止したはずのスターク製の兵器がステインによって未だ流通しており、更には命の恩人であるインセンの故郷、ブルミラが破壊されているという事実をトニーに知らせるという重要な役割を成している。
ラストシーンの記者会見
この作品を通して最も、いやMCUシリーズ通して最重要シーンのひとつと言っても過言ではない、あの名台詞のシーン。トニーがメモを無視して言った理由について詳しくは後述するが、その過程にはやはりこの女が絡んでいる。尻軽女記者、侮りがたし。
「タイムリミット可視化」で解るスリル演出3シーン
登場人物が危機に直面するシーンで、残り時間やエネルギー残量を具体的に数値で伝えたり可視化させることで緊迫感をより煽る効果がある。具体的に利用されているシーンを3パターンみてみよう。
マークⅠ完成間際
テロリストのアジトにてトニーがマークⅠを完成する際に、インセンがトニーの言葉に従ってPCを操作する場面。テロリストの先鋒部隊が入り口に仕掛けられた爆弾によって吹き飛ばされ、追っ手が来ようとしている時、モニターには進行表示バーが表示されている。これがタイムリミットの可視化。ただ言葉のやりとりをするより、具体的に残り時間を見せるようにすることでより焦らされる。
ペッパーの出荷データ回収シーン
後半、トニーに頼まれてペッパーが本社でデータを回収するシーン、そこへステインが現れ、ダウンロード画面を見られてしまうのではないかと誰もがヒヤヒヤしたことだろう。モニターにダウンロード中の画面を表示させて目まぐるしくコピーしている状態をみせ、緊迫感を煽っている。
ラストバトルでの空飛び合戦
終盤、トニーのマークⅢ対ステインのアイアンモンガーの場面で空へ飛び出し、上昇しまくるシーンだ。J.A.R.V.I.S.がマークⅢのパワー残量が15%で上昇は危険だと警告する。13%・・・7%と減っていくその数値がタイムリミットの可視化。この状況でどうやって倒すの?もう無理っしょ・・とスリルを増幅させることにやはり一役買っている。
「ラストシーン」トニーの名台詞と解釈
そこは敢えて曖昧になっており、観客に考えさせる演出と言っても良いだろう。それぞれの想像次第で解釈が変わる場面。
ウチダの解釈
アイアンマンは正義であり誇りであるという自覚
会見前にトニーは新聞を読みながら「アイアンマン」は響きがいい云々と言ったり等、ニュースになっていることに対して悪い気はしていないし、ペッパーに対しても「私がアイアンマンなら正体を知った恋人のことを誇りに思い~」という発言にも伺えるように、トニーにとってアイアンマンは正義であり、誇りであり、別に隠すこともないんじゃないか、と本心では思っている。
後押ししたのはやはりこの女
先述した女性記者クリスティン。「そんな見え透いた嘘、誰も信じないわよ。けどあんたがアイアンマンだとは言ってない」という発言。その後のトニーの目線の移動に注目。「真実を言うと・・・」とメモ見てから、思い直したように目線をメモから外して上にいき、「私がアイアンマンだ」といった後、目線を下げてクリスティンを見下ろしているように見える。よってクリスティンの煽りがアイアンマン発言に至った直接的なきっかけだと考える。アイアンマンかっこいい、それを作って実践した俺かっこいいという自己陶酔、引いては別に隠すこともねーじゃんという思い、自己顕示欲。それらが渦巻いていたところに火をつけられて発言したのだろう。
終わりに
映画に無駄なシーンあらず
映画でも小説でも漫画でも無駄な場面は極力省かれて作られている。当然といえば当然だ。であるなら、どういう意味や伏線で各シーンが創られているのか?など考えながら観るのもまた面白い。
再び観ようと思ったきっかけ
シリーズ中でも重要度の高い作品のひとつである『アイアンマン』。10年ほど前、DVDが出た直後くらいに一度レンタルしたのだが、その頃はあまりMCUに関心がなく、なんとなく話題作を観ようと思っただけだったのでほとんど忘れていた。先日マーベルシリーズのひとつの完結編である『アベンジャーズ/エンドゲーム』を観てMCU作品を網羅していないにも関わらず感銘を受けた。そこで全作品を観てから今一度エンドゲームを見返したい!と思ったのがきっかけ。
エンドゲームの感想はこちら。ざっくりストーリーを追いつつ感想述べただけの拙文ですがよかったら。
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